


カノジョたちとの「おもいで」をノートに記録しました。
蝉の声が木々の合間から差し込まれてくる。
ゆらりと揺れる空気に触れた蜃気楼が私にまとわりついていた。
窓の外にはどこまでも青い空が広がり、その中に愛らしい白い塊を見つけると、心が少し楽になった。
とはいえ差し込む日差しが刺さり始めてすぐに現実に戻される。
「……暑い…」
思わず呟いて、窓から舞うしなやかな風に身を揺蕩わせるが、居心地の悪さにあまり変化はなかった。
ぱたぱた。
……ぱたぱた。
「うーん……これじゃ全然涼しくない…」
手元のノートで仰いだものの、小さく顔をしかめてノートを仕舞う。
のどの渇きを潤したくなったが、購買や自販機までの距離を考えてまたしても鬱屈としてしまう。
ふと外を見ると、“灼熱のおうさま”に照らされた校庭の向こうで、ゆらゆらと陽炎が揺れている。
意味もなくそれをぼんやり眺めていると、ふと頭の中に、今の私を逃がしてくれそうな場所が浮かんだ。
私は学校の裏手に向かうと、人の通りが少なく、大きな木が一本だけ立っている場所に訪れる。校舎の影が伸びる時間なら、きっと今ごろはちょうどいい木陰になっているはず。
「……ふふ」
オアシスへと向かう私は、今のこの状況をなのtかできそうな安心感から思わず声を漏らしてしまう。
しばらく進んでいくと、古びたコンテナのあるいつもの通路へ出る。
思いのほか開けた場所なので大好きな空も見えるし、何より人がほとんど来ないという安心感が何よりの安らぎだった。
目的の場所へ就いて空を見上げる。
見上げた瞳にはおっきなおっきな澄み切った蒼。
いつか私もあそこへ飛んでいきたい――
もはや私のコクピットといっても過言ではない、無骨な樹脂の箱に腰掛ける。
ここには私だけ
スカートの翻りも気にせず、樹木で冷やされた空気を取り込んでいく。
天上の“灼熱のおうさま”も、ここではきっと脇役だね いつごろからか消えていた煩わしさに安堵しながら、私は空に想いを馳せるのだった――

今までの「おもいで」をいつでも見返してください。

カノジョたちの日常の一コマを少しだけ覗き見。
放課後の教室。
夕焼け色に染まる窓から、柔らかな光が机の上にふわりと広がっていた。
「ねぇ葉月ちゃん~、今度の週末って空いてる?」
野々花は頬杖をつきながらにっこりと笑っていたが、制服のリボンが少し曲がっていて彼女らしい“うっかり”がそのまま表れている。
「ええ、今週はたまたま予定はないけれど……どうして?」
そんな野々花とは対照的に、葉月は整った姿勢で返事をしながらも、野々花のリボンにそっと手を伸ばし、器用に直してあげた。
「あ、ごめんねっ。ありがとっ♡ それでえっとね、最近できたスイーツビュッフェ、行ってみたくて!ほら、あの駅前のホテルのやつ!パンケーキがね、ふわっふわで……しかもチョコレートタワーもあるんだって~!」
「ふふっ、あなたらしいお誘いね。相変わらず甘いものに目がないんだから」
「うんっ、葉月ちゃんも絶対好きだと思って♪ でも行くなら、ちょっとオシャレしていきたいな~。せっかくのデートだし」
「そうね、たまには違った服でのお出かけも悪くないわね……ワンピースとか着てみようかしら」
「わぁ~葉月ちゃんのワンピース姿……ぜっっったい可愛い!! 写真いっぱい撮らなきゃっ」
「……あなた…SNSに載せる気でしょ?」
「えへへ~バレた? でも大丈夫!ちゃんと“超かわいい親友”って紹介するからっ♡」
「まったく、あなたって本当に……」
苦笑しながらも葉月はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「ねぇ、野々花。わたし……あなたとこうして何気なく話してる時間が、実はすごく好きなの」
「え……?」
このなんでもない時間を噛みしめるように葉月は野々花を見つめる。
突然の葉月の一言に、野々花はちょっとだけ驚いたように目を瞬かせた。でもすぐに、はにかんだように笑った。
「うん、わたしも。葉月ちゃんと一緒にいるとなんだかホッとするんだよね。なんでだろ~?安心できるっていうかさ」
「ふふ、どうしてかしらね。でも野々花も同じなら嬉しいわ」
「うん!お揃いだね!えへへ……」
嬉しい反面、少しだけ恥ずかしそうな野々花は照れ隠しに笑う
「今度のデート、めいっぱい楽しもっ!おそろいのカチューシャとかもつけちゃおっか!」
「……そ、それは少し考えさせてちょうだい…」
「えー!? いいでしょ~?」
他愛もない瞬間。見慣れた教室の窓際。それでいて特別な時間。
交差する笑い声が夕日に溶けて、教室はしばらくふたりだけの秘密の場所になっていた。
日曜日の朝。きのこのみ学園の裏手に広がる森の小道を、野々花はスニーカーで軽やかに歩いていた。
「杏ちゃん、こっちこっちー!」
野々花はどんどんと先に進んで後ろの杏に声をかけると、その後ろから小さな足音が草を踏んで追いついてくる。
「……の、野々花ちゃん、そんなに急いだら……鳥が逃げちゃうよ」
「あ、ほら! あそこ、あの枝のとこ!」
野々花は双眼鏡をぶらさげながら指をさす。
それを見て杏は、持ってきた図鑑をぱらぱらと開いた。
「あれは……センダイムシクイ、かも。声が“焼酎一杯グイー”って聞こえるのが、特徴」
「えぇ、焼酎!? なにそれ〜かわいくない〜!」
「かわいいよ。ちまっとしてて」
杏は両手で小ささを表現して伝える
「あっ、今こっち向いた! かわい〜〜!」
木々のあいだから差し込む光のなか、小鳥が枝にちょこんと止まっている。
風に揺れる葉と一緒に、野々花の瞳もきらきらと揺れた。
「なんか、癒されるねぇ……」
「うん。……こうしてると悩んでるいろんなことが嘘みたいだよね……」
杏はどこか遠くを見つめながら、か細くつぶやく。
「杏ちゃん? もしかしてオツカレ?」
野々花は杏を気遣うように、首をかしげながら覗き見る。
「え? ううん、そんなことないよ。お勉強も学校も楽しいから疲れてるとかはないよ。ただ…たまにリラックスして頭も体もからっぽにしたいなって思うときはあるかな……」
杏が見てる“そら”はとても遠く、高く、どこまでも広い――
自らの手には届かないその空を、自由に颯爽と飛ぶ彼らを羨ましく思いながら見つめる杏の瞳は、どこか寂しそうだった。
「それじゃあ杏ちゃんっ!今日はいっぱいリラックスして鳥さんを観察しよっ!」
その空気を破る野々花の優しい風が杏を少しの憂鬱から解き放つ。
そう、これなのだ。
杏が野々花を好ましく思う理由はこれにある。
勉強が大変なのは当然。自分で選んだ道なのだからあきらめたくはない。
それでもふと心が弱くなる時がある。自問自答してわからなくなる。
けれど野々花はどんなに杏が自問自答して俯いても、落ち込んでも、いつも救い出してくれる。
そしてそれを受けて、心がぱぁっと明るくなる自分を感じられるからこそまた頑張れる。
「ふふっ、野々花ちゃん。調査に来たわけじゃないんだから、バードウォッチングってそんなに気合を入れてするものじゃないよ?」
ガッツポーズの野々花に、杏は思わず笑みがこぼれる。
「あはは、そっかそっか」
舌を出して頭を掻く野々花。
そんな他愛ない会話を交わしながら、ふたりは林道を歩く。
やがて杏が、ぽつりと言った。
「……野々花ちゃんの、“ののか”って名前……鳥みたいだよね」
「えっ、どういうこと?」
目を丸くする野々花をじっと見つめる杏。
「……軽やかで、明るくて、いつも空を見てる。なんとなく、メジロとか……そんな雰囲気……」
「メジロって、お目目が白いやつ?」
「うん。言うなれば野々花ちゃんは“ノノジロ”だね……」
「まさかのダジャレ!? 杏ちゃんがダジャレを言うなんて!?」
ふたりで顔を見合わせて、あははっと笑う。
風に乗って、また鳥の声が聞こえた。
「……今度、また来よっか。今度はお弁当持って」
「うん。野々花ちゃんと来るなら、いつでもどこでも」
照れたように杏が言ったその瞬間、どこかでホトトギスの声が響いた。
それは、まるでふたりの気持ちをこっそり応援するようだった。
蝉の声が木々の合間から差し込まれてくる。
ゆらりと揺れる空気に触れた蜃気楼が私にまとわりついていた。
窓の外にはどこまでも青い空が広がり、その中に愛らしい白い塊を見つけると、心が少し楽になった。
とはいえ差し込む日差しが刺さり始めてすぐに現実に戻される。
「……暑い…」
思わず呟いて、窓から舞うしなやかな風に身を揺蕩わせるが、居心地の悪さにあまり変化はなかった。
ぱたぱた。
……ぱたぱた。
「うーん……これじゃ全然涼しくない…」
手元のノートで仰いだものの、小さく顔をしかめてノートを仕舞う。
のどの渇きを潤したくなったが、購買や自販機までの距離を考えてまたしても鬱屈としてしまう。
ふと外を見ると、“灼熱のおうさま”に照らされた校庭の向こうで、ゆらゆらと陽炎が揺れている。
意味もなくそれをぼんやり眺めていると、ふと頭の中に、今の私を逃がしてくれそうな場所が浮かんだ。
私は学校の裏手に向かうと、人の通りが少なく、大きな木が一本だけ立っている場所に訪れる。校舎の影が伸びる時間なら、きっと今ごろはちょうどいい木陰になっているはず。
「……ふふ」
オアシスへと向かう私は、今のこの状況をなのtかできそうな安心感から思わず声を漏らしてしまう。
しばらく進んでいくと、古びたコンテナのあるいつもの通路へ出る。
思いのほか開けた場所なので大好きな空も見えるし、何より人がほとんど来ないという安心感が何よりの安らぎだった。
目的の場所へ就いて空を見上げる。
見上げた瞳にはおっきなおっきな澄み切った蒼。
いつか私もあそこへ飛んでいきたい――
もはや私のコクピットといっても過言ではない、無骨な樹脂の箱に腰掛ける。
ここには私だけ
スカートの翻りも気にせず、樹木で冷やされた空気を取り込んでいく。
天上の“灼熱のおうさま”も、ここではきっと脇役だね いつごろからか消えていた煩わしさに安堵しながら、私は空に想いを馳せるのだった――











































































